『ビジネス力の磨き方』

【評価】

☆☆☆☆


【紹介】
P.F.ドラッカーに並び,国際的に強い影響力を持った知識人である大前研一氏の著作で,新興国経済が勢いを増す中,先進国労働者一人一人がどのような認識を持ち,どのような能力を高めていくべきかについて書かれています.内容としては『ザ・プロフェッショナル』『即戦力の磨き方』の延長といった印象です.本書で強調されている能力は「先見力」「突破力」「影響力」「仕事力」「人間力」の五つです.いくつか紹介します.

先見力を磨け:先見力の重要性については,『ザ・プロフェッショナル』でも強調されています.アジア各国で工業,IT,金融等で活躍できる優秀な労働者が登場している中,我が国は労働集約型の工業化社会の強化で生き残れるのか,従来型の学歴エリートの大量確保で競争力が確保できるのか,といった課題は我々が本気で考えなければならないことです.本書では,先見力を発揮するプロセスとして(1)観察,(2)兆しの発見,(3)事象に働いている外力の把握,(4)現在の事象を早送りした時の状況を考える,という4つの要素を紹介しています.特に(3)(4)が先見性の鍵となります.周りで起こる様々なことに対し,このプロセスを適応する訓練を繰り返すことで,日々自らの先見力を鍛える姿勢が大事です.


影響力を磨け:日本が加工貿易国の時は,教えられた答えを暗記し,正確に仕事をすることが最重要能力でしたが,そのような能力をもった人は,今アジアの低賃金国に大量に存在します.今後企業が高く評価するのは,答えを自分の頭で考え出し,周りに人々に影響を与える人です.そのために,まずは思考の型を身に着け(最初はMECE,論理的思考から),身の回りの出来事に当事者になったつもりで考える訓練を重ね,考える能力を磨かなければなりません.その上で,リーダーシップ,コンセプトワーク,コミュニケーションといった能力も,意識して高めていくことが重要です.


仕事力を磨け:ビジネス環境の変化が激しさを増すにつれ,従来重宝されてきた,時間がかかってもミスの無い完璧なものが出来上がれば良いという考えを,見直さなければならなくなってきました.生産管理の世界でも,業務プロセスの最適化,ボトルネックの排除が重要視されるように,個々人の業務でも,最も効率のよいやり方でことを進める能力が必須となりつつあります.また,効率とともに重要なのが,近年の情報ツールを正しく理解することです.YouTubeやTiVo(見たいTV番組をCM抜きでダウンロードできる装置)が普及している中,TVCMは投資に見合うものなのか?,記者のフィルターのかかったNHKニュースや日経新聞に熱心に目を通していて,先見的な発想が生まれうるのか?といったことを,今一度考える必要があります.



【管理人より】
最近は,仕事に必要な勉強に時間の多くを割いているため,読書は控えていたのですが,気分転換も必要ということで本書を読んだ次第です.読みながら,頭に浮かんだことをいくつか書きます.


自分の頭で考える習慣が自分にあるかを常に問わなければならない:経済予測の類の報告は,政府機関をはじめ,有名な大学,研究機関,金融機関等から度々行われていますが,あたることは極めて少ないです.また,マスメディアの政治に関する報道,経済に関する主張も,その妥当性には疑問符がつきます.自分の頭の中が,言っていることが,彼等の受売りになっていないか,常に注意を払う必要があります.私も,P.F.ドラッカーや大前氏の主張を,客観的かつ冷徹に受け取れているかなど,今一度自問する必要がありそうです.


衰退産業の保護より,成長・発展分野への人的・資金的支援が重要である:M.E.ポーターの研究でも明らかにされていますが,政府から中長期の補助を受けた産業の多くは,政府の意向とは裏腹に,高い確率で国際競争力を失い,衰退の道を歩みます.実際我が国の米作も,莫大な補助金を受けながら国民の食料をほとんどまかなえていないのが現状です.(ちなみに,米農家への補助金年額の約1/30があれば,海外で日本の食糧自給に必要な農地と農業経営者,従業員,機器が全て購入できます.)農業に限らずですが,弱者へはその場しのぎの補助金を与えるのではなく,本当に進むべき方向を提示し,そこで成功するための資金とノウハウを提供するといったアプローチが重要なのではないでしょうか.



【関連書籍】
ザ・プロフェッショナル大前研一
『即戦力の磨き方』大前研一
『ロウアーミドルの衝撃』大前研一


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