『最強の経営学』

【評価】

☆☆☆


【紹介】
ハーバードMBA,ボストンコンサルティング,ATカーニー,同志社大学教授という刺激的な経歴の持ち主である,島田隆氏の著作です.新しい経営理論にむやみに飛びつく風潮に警鐘を鳴らすとともに,意思決定とは本来どういうものか,最低限抑えるべき経営理論は何かについて書かれています.経営ツールとしては,経験曲線,プロダクトライフサイクル,ROEとEVA,PPM,フラット型組織と他書でもよく見かける基本的なものばかりです.本書独特な部分をいくつか紹介します.


情報の種類と意思決定:情報には単なる定量的情報を集めたデータと,データを加工してそこに意味まで付加されたインフォメーション,そこから何が言えるかまで踏み込んだインプリケーション,インプリケーションをもとに実際の行動を決めるジャッジメントがあります.経営者に必要なのはこのジャッジメントを行うことです.重要なのは,ジャッジメントは常に不確実性下で行わなければならないということです.不確実性がなければ,わざわざジャッジメントする必要は無いわけです.経営者(コンサルタント)の仕事は,このどれだけ情報を集めても消えない不確実性の下でジャッジメントを行うことなのだということを肝に銘ずる必要があります.


Cash Flow ManagemantとEconomic Earning(EE):会社は,多少赤字が続いても潰れませんが,資金が回らなくなると途端に倒産してしまいます.そこで昔からキャッシュフロー経営の重要性が至る所で訴えられている訳ですが,それを徹底できている企業は極めて少数です.キャッシュフロー報告書を単に作成して,大まかに眺めるだけでなく,事業キャッシュフローなら,減価償却費,在庫減,売掛金の減少,買掛金の増加,その他によるキャッシュフローの当期の数字,過去の数字を細かに見て,問題点があれば早期に手を打つ必要があります.また,資金調達可能な額とそのコストは,会社の収益力の大きく左右されます.近年では,ROI(投資利益率),ROE(自己資本利益率),NPV(正味現在価値)の他にも,資本コストを上回る利益の大きさを測るEVA(経済付加価値)や,投資家が請求すべき利益を指し引いたときの利益の大きさを測るEEなどの手法が提案されています.会計報告書を見る際には,その構成要素にまで深く注意を払うこと,利益の増減だけでなく,手持ち資金の増減,利益率が適正水準かどうかにも注意を払うことが極めて重要です.


タイトルが若干胡散臭い本ですが,書いてあることは非常に真面目なので,ビジネス書の取っ掛かりとしてはよいかもれません.



【管理人より】
最近,意図した訳ではありませんが,会計知識の重要さを感じさせてくれる本が多いです.実際,経営誌などを読んでいてもそういった主張は多々目にすることと思います.学生の中には簿記検定に目が行く方も多いと思いますが,その際の注意点を言っておきます.


簿記では,財務諸表の「分析」にはあまり触れない:学習簿記は,会計項目の意味,仕分け方法,貸借対照表,損益計算書の作成方法,原価計算法については詳しく学ぶことができますが,財務諸表の項目を分解し,問題点を分析し,意思決定をするといったプロセスにはほとんど触れません.効率を重視する方は,会計項目や財務諸表,原価計算等について書かれた本を一冊読んで,その後は企業分析や経営分析,企業価値評価に関連した書籍に進む方が良いかと思います.


IFRSに注意せよ:IFRS(国際会計基準)という言葉が,現在世間を賑わせています.日本の多くの企業がこれからその影響を受けるようになります.しかしながら,簿記のテキストでは,これに対処するのは難しいかと思います.会計事務所を中心に,IFRSに関する解説書が多々出ています.IFRSに関して全く知らない方は,これらで最低限の知識は,身につけておくと良いと思います.


以上です.


【関連書籍】
『会社を変える戦略』 山本真司
『BCG戦略コンセプト』 水越豊



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