『クルーグマンの視座』

【評価】

☆☆☆


【紹介】

2008年にノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマンハーバードビジネスレビューに提出した論文の中で,特に有名なものを3本と,同氏がハーバードビジネスレビューから受けたインタビューを1本載せた本です.


一章:アメリカ経済に奇跡は起こらないではニューパラダイム説(急激な技術革新と経済のグローバル化により,経済がインフレを起こすことなく,これまで以上のスピードで成長を続けられるという主張)が明らかに間違いであることを,経済の基礎理論をもとに分かりやすく説明しています.

二章:国の経済は企業とどう違うかでは,企業経営と国家(特に日米のような大国)の経済とでは考え方が全く異なるため,ビジネス界の成功者に経済政策等の助言を求める際には注意が必要であることを訴えています.

三章:第三世界の成長は第一世界の脅威となるかでは,新興国が賃金の上昇を伴うことなく生産性のみを向上させることはありえないこと,そのため新興国の生産性の向上が,先進国の賃金の低下に寄与する程度は極めて小さいことについて説明しています.

四章:中国脅威論の幻想では,中国の経済成長による先進国経済への影響,中国政府による為替介入,雇用流出・産業の空洞化について,世間の過剰な反応に対する著者の反論が述べられています.


どちらかというと経済学の専門知識のない人向けの内容という印象です.短時間でクルーグマンの見解について触れられる点はなかなか良いのではないかと思います.



【管理人より】

先進国・新興国の今後の経済成長がいかほどのものなのか?そしてそのことは我々先進国民の生活にどのような変化を及ぼしうるのかについて,見識を深められた点で,この本から得たものは少なくないと感じています.

また新興国の成長に対し,その脅威だけでなく機会としての側面も正当に評価すべきであるという考えは,私も以前から持っていたので強く共感できるものでした.


しかしながら,本書で掲載された論文の多くは,従来の経済学者・政策提言者等の間違いを指摘することに多くの紙面が割かれており,今後我々がどうすべきかについてはほとんど述べていません.私は,問題解決策を積極的に考え提示していく人間に,より大きな価値を感じるためその点は残念でした.

最近の著書ではクルーグマンも,それらについて少なからず言及しているようなので近々それらにも触れてみたいと思います.



【関連書籍】
『暴走する資本主義』ロバート・B・ライシュ(2008)
『不況からの脱出』ポール・R・クルーグマン(2009)
『世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す』ジョセフ・E. スティグリッツ(2006)


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