『新たなる資本主義の正体』

【評価】

☆☆☆


【紹介】
資本の分散が進んだ現代において,会社・経営者,投資ファンド,監視機関,基準・評価指標,市民社会団体,議会・規制当局はこれからどうなっていくか,どうなっていくべきかについて述べた本です.要は

何億人もの先進国勤労層の年金や生活の貯えが,投資ファンド経由で世界的大企業の株式に投資されるようになったことで,事業の経済的目的と社会的目的の双方が同一の相手に及ぶようになったため,会社の事業戦略もファンドの投資方針も社会全体に価値を生み出すものでなければならなくなった

訳です.投資ファンドの資金が中間労働層の財産が元になっている以上,彼等は短期的な利益に走る企業や公害を撒き散らすような企業には投資をしなくなりますし,彼等が投資先企業の経営者・取締役会の透明性と機能の正常化に対し建設的なアクティビスト活動(もの言う株主としての活動)を行う必要性も増してくるわけです.


勿論,そのためには市民投資家一人一人が,自分達の影響力をきちんと理解し,企業の健全性・透明性を求める活動が必要となりますし,それを後押しする調査機関や監視機関,さらには政府の規制が必要となります.それでも,先進諸国は,自分達の豊かな資産形成と社会環境の創出するため,正しい認識の獲得と継続的な努力によって,これらを成功させなければならないことが訴えられています.



【管理人より】
機関投資家の資本が中間労働層の資産から拠出されるようになることで,投資機関・投資先企業の活動が影響を受けるという主張自体はそこまで目新しいものではないかと思います.実際,このことはP.F.ドラッカーをはじめ様々な社会科学者・経済学者らによっても指摘されてきました.それらとの差分が少なかった点では,若干物足りなさを感じます.

とはいえ,このような資本の分散が,結果として社会の全体最適の原動力となるという主張には,個人的にも賛成ですし,実際それが実現されるよう我々先進諸国は努力していかなければならないなと,強く感じてます.



ここで少しだけ,私個人の話をします.
ファンドという組織には,私も以前から興味を抱いていまして,イノベーション創出や産業育成の原動力となり得るベンチャーキャピタルプライベートエクイティファンドの重要性は強く感じていますし,いつかこれらの機関で働きたいと思ったことも何度かあります.ただ残念ながらわが国では,上記の両方ともうまく機能していませんよね.コンサルタントとしてスキル・知識を積み,コンサルタントないしは内部の人間として,これらの機関の問題解決にあたっていくのもなかなか良いかと思っています.

あるいは,5年,10年と経つ中で,今の世には存在していない,より社会の需要に合ったアクティビストファンドが生まれてくることも考えられます.実際,従来から存在してきたヘッジファンドやミューチュアルファンドの多くが変革を余儀なくされていますし,その中からより理想的なコンセプトが生まれる可能性は十分考えられます.存在していれば,そういったところに行くのも良いでしょうし,なければ自分達で創り出していくことも考えています.

まあその前にやるべきことがたくさんありますね.長期的展望も大事ですが,短期・中期の目標も一つ一つきちんとこなす努力を怠らないよう気を付けます.以上となります.



【関連書籍】
『見えざる革命』P.F.ドラッカー(1996)
ネクスト・ソサエティ−』P.F.ドラッカー(2002)
『暴走する資本主義』ロバート・ライシュ(2008)


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