『BCG 戦略コンセプト』

【評価】

☆☆☆☆☆


【紹介】
ボストンコンサルティンググループの事業戦略,市場戦略,組織戦略に関する考え方と,その際用いられる経営ツールが紹介されている本です.一章:競争優位の6つの視点は本書の総論となっており,日本企業が競争優位を築くための3つの問い(価値創造:誰に対して価値を提供して勝つか / 事業構造:どのような儲けの仕組みを構築するか / 競争要因:どのように勝ちパターンを永続させるか)に対する明確な意識と,それを元にした行動の重要性が指摘されており,二章以降がそれを出発点とした各論となっています.特に印象に残った章を3つ紹介します.


二章:株主価値では,企業価値への貢献を測るため,キャッシュフローと事業価値の変化の合計を元とする評価手法TBR(Total Business Return)が紹介されています.そしてこれを使い,PPM(Product Portofolio Management)の進化形のVP(Value Portofolio)というフレームワークが提案されています.VPは,縦軸を「ビジョンとの整合性」,横軸を「事業価値創造への貢献」とし,それらが共に高い事業を本命事業,ビジョンとの整合性のみが高い事業を変革事業,事業価値創造への貢献のみが高い事業を機会事業,共に低い事業を見切り事業と位置づけ,投資の意思決定に活用するためのツールです.


三章:顧客価値では,平均化の罠(全ての顧客に対し一律にサービス向上を図ると,場合によっては儲からない顧客を惹きつけてしまい,儲かる顧客との機会を失う危険があること)と最大公約数の罠(全ての顧客を満足させようと商品を設計して,結局誰も満足させらない中途半端な製品をつくってしまうこと)について指摘がなされており,儲かる顧客の選別,顧客ごとの対応を使い分けの必要性が訴えられています.その上で,顧客が個別ニーズを十分に満たされたと感じれば,その効果が実現価格の向上,ブランドロイヤリティの形成といった形で幾何級数的に増大するという調査結果と,昨今の生産設備の柔軟性や情報処理技術の向上を元に,セグメントワン(多くの人に効率的にVIPサービスを提供する)戦略を取ることが重要であると主張されています.


七章:時間優位では,時間短縮のご利益として,(1)生産性の向上,(2)価値向上とそれに応じた価格設定,(3)見込需要を見誤るリスクの低減, (4)シェアの拡大 を挙げ,時間こそが最も貴重な資源であるというタイムベース戦略の価値が提唱されています.また,生産プロセスの中で生じる,前工程の待ち時間,手直しにかかる時間,次工程に進む意思決定を下すまでの時間,を情報の断絶解消によって克服することで,コストと製品数・製品の品質との二律背反を克服することができると主張されています.


四章:バリューチェーンでは,デコンストラクション(バリューチェーンの一部ないしは全体を根本から組み立てなおすこと)の重要性,五章:事業構造では,PPMの詳しい説明,六章:コスト優位ではエクスペリアンスカーブ(製品の累積生産量が倍になるごとに製造コストが一定割合づつ低下すること)を利用し,コスト優位に立つための生産計画を立てること重要性,がそれぞれ書かれています.


紹介されている手法がそのまま現在の経営課題の分析・解決に適用可能かは別として,これらに一度触れておくことで最新の経営ツールの理解,そして発案に役立つことも少なくないと思います.マッキンゼー式の経営ツールと比較しながら読んでみると面白いと思います.



【管理人より】
本書で紹介されているツールは,いずれも格別斬新なものではないかと思います.類似のフレームワークや,主張はマッキンゼーの書籍,経営学者等の書籍でも拝見することができます.

例えば,PPMの発展形としては,マッキンゼー9-BOX(縦軸を業界の魅力,横軸を業界内での競争力,とした3×3のマトリックスで事業の投資・撤退の意思決定を行う手法)やその発展形のMACS(縦軸を親会社が事業に与える価値,横軸を事業部の価値創造力とした,2×3のマトリックスで事業を評価する方法)など,様々あります.どれがより優れているかではなく,

  • 自社が何を知るべきかを的確にとらえ,それにあった手法を用いること
  • 分析を完璧に行うことに終始しないこと
  • 経済環境は常に変化することを頭にいれ,分析と戦略の修正を絶えず行うこと
  • 報告書・分析資料といった二次情報だけでなく,現場の様子,現場社員の声も参考にすること
  • 分析結果をもとに,バランスの取れた成長戦略とキャッシュ回収戦略を立案すること
  • どの分析手法においても,事業のマトリックス上の位置を絶対視してはならず,縦横軸に含まれていない事柄で重要なもの(今までの投資額や業界外の動き)も含めて分析結果を見ること


などに常に注意を払い,慎重かつ迅速な行動を心がけることかと思います.

ちなみに,セグメントワンの類似概念およびその拡張に関してはフィリップコトラーの書籍を,バリューチェーンの見直しと再構成に関しては内田和成氏の『異業種競争戦略』に,より示唆に富んだ内容が書かれています.また,タイムベース戦略と似た考え方として,遠藤功氏の『現場力を鍛える』でも,現場組織への権限委譲・現場組織での情報伝達の最適化などによって,スピードと品質,コストと製品多様性といった二律背反の克服が可能であること,そしてこれらが極めて競争優位に貢献し得ることが書かれています.興味があれば是非読んでみてください.私もここらあたりでちょっと自分の知識を整理する目的も兼ね,これらの本に再度目を通してみようかと思います.

以上となります.



【関連書籍】
『BCG流 成長へのイノベーション戦略』ジェームズ P アンドリュー
『異業種 競争戦略』内田和成
『経営参謀の発想法』 後 正武
『現場力を鍛える』 遠藤功


人気ブログランキングへ ビジネスネット