『ハイ・コンセプト』

【評価】

☆☆☆☆


【紹介】
「21世紀にまともな給料をもらって,良い生活をしようと思った時に何をしなければならないか」という質問に対し,真正面から回答することを試みた本です.本書の構成としては,大きく以下の二つの要素からなります.まず第一部では

先進国の知識労働者を脅かす三つの危機について書かれています.具体的には,(1)先進国が物質的な豊かさで満たされることで,論理的な必要性を超えた価値を提供する製品が重要視されるようになったこと,(2)アジアの知識労働層が厚みを増し,IT・財務・技術開発といった仕事がアジア地域に次々とアウトソースされるようになったこと,(3)肉体労働だけでなく,プログラミングや医師の診察,弁護士の業務など,従来高度な知識労働と見なされていた仕事までが,コンピュータ・機械によって行えるようになったこと,などが挙げられています.そこで,我々はアジアの知識労働者やコンピュータではできないような,高付加価値の能力を身につける必要があること,その上で右脳主導型思考を強化することの重要性が訴えられています.そして,第二部では,


これから求められる六つの感性(デザイン,物語,全体の調和,共感,遊び心,生きがい)に注目すべきであることが訴えられています.そして,それらを得るためには,分析・論理・連続性といった特徴を有する左脳ではなく,総括的思考・パターン認識・感情の理解などに優れた右脳を強化する必要性があることが訴えられています.また,近年,欧米諸国を中心とする先進国においてMBAに変わって,芸術・デザインを学ぶ大学・大学院に通う学生・社会人が増加しているという興味深い事例も挙げられています.


注意していただきたいのは,著者は左脳主導型思考が必要なくなるとは言っていないことです.右脳型思考の重要性は,何度も強調されていますが,それは左脳型思考に取って代わるものではなく,それを補完するものであるというのが,本書の結論です.将来自身が進むべき方向を検討するうえで,なかなか示唆に富んだ内容かと思います.一度読んで見てはどうでしょうか?



【管理人より】
アジアの労働力の充実,コンピュータソフトウェアの性能の向上および多様化のなか,先進国の知識労働者が進むべき道を示したという点では,なかなか興味深い内容かと思います.本書を読んで考えたことを,自戒も込めて書きたいと思います.具体的には,以下の二つです.


コモディティ化した労働力にならないように注意しなければならない:企業が自社の製品・サービスのポジショニング戦略を練る際には,自社・競合・顧客を冷静に見つめ,自分達が優位性を持ち,また代替品の脅威の小さいポジションを狙うのが基本です.これは,人材市場においても同じではないでしょうか?競合より価値で勝り,代替の効かない能力を身に着けなければ,当人の労働力は,製品市場で言うところのコモディティとなり,低価格(低賃金)競争に巻き込まれる危険性は大いに考えれられます.このことを心に留め,先進国の各人が各々正しい自己研鑽に励んでくれることを願います.


先進国の人間が持つ優位性を正しく認識し,自ら構築し高めていく必要がある:私は,普段理論物理学の研究を進めているのですが,その中に機械学習という分野があります.そこでは,コンピュータに顔や文字の識別をさせたり,離散的なデータの集合から法則性を見つけ出させたりといった処理を可能にさせるべく,数理科学・理論神経科学・情報科学の理論を総動員させて研究が進められているのですが,現状として課題は山積みです.データの記憶容量や,計算の繰り返しといったことは,人間の到底及ばない優位性を誇るコンピュータですが,パターン認識や非連続的な処理といった類の機能では,まだ人類に比べかなり劣っています.その点で,コンピュータへの優位性といった点で,右脳に着目するのはそれなりに的を射ていると思います.ただし,新興国内にも右脳・左脳ともに充実した人間は数多く登場していくはずです.おそらく著者の提言も,完全な正解ではないと思います.では,先進国民にとって,そして自身にとっての正解とは何なのか,それを個々人が常に考え,模索し,追究していってくれることを願います.


本日は、以上となります.



【関連書籍】
『いかに知の衰退から脱出するか』 大前研一
『EQ 心の知能指数 ダニエル・ゴールマン
ネクストマーケット』 CKプラハラート



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