『仮説思考』

【評価】

☆☆☆☆


【紹介】
ボストンコンサルティング元日本代表で,早稲田ビジネススクール等で教鞭も揮っておられる内田和成氏の著作です.タイトルから分かるとおり仮説思考の重要性とそのプロセス・トレーニング方法について書かれています.仮説思考や論理思考といった類の書籍は数多くあります.それらとの重複部分も多少あるかと思いますが,内田氏の主張についていくつか要点を紹介します.


網羅思考からの脱却が不可欠である:網羅思考とは,その名のごとく当該の課題に関連情報を全て調べた上で,意思決定を試みる思考形式です.その問題点は大きく三つあります.一つは膨大な時間がかかること,二つ目は最後まで問題の全体像が見えないこと,そして三つ目は導かれる結論も総花的になりがちでひとつひとつの重要性が薄れがちであることです.これに対し仮説思考とは,既存の限られた情報のみを頼りに問題の全体像を予想し,そこから最善の打ち手を考える方法です.分析作業では,この自分の立てた仮説の検証・深堀りのために行うことになります.有限時間で,最大の効果を出すには,この仮説・検証のプロセスが欠かせません.


仮説構築力向上のための訓練を怠ってはならない:良い仮説の条件は,問題の発見から解決方法まで深く掘り下げられていること,具体的な行動に結びつくことです.これらは,容易に構築可能になるものではありません.思考の癖の排除と,普段から考える習慣をつけることが不可欠です.全社においては,相手の視点から考える,両極端に振る(現行の戦略と逆の戦略を徹底した場合を考える),ゼロベースで考えるといった努力が欠かせません.また,後者に関しては,データや特定の事例を目にした際,「何故それが生じたか?」と「それによって何が起こるのか?」を問い続ける姿勢が重要です.


これらの他にも,インタビューやプレゼンにおける注意点など,若手にとって役立つ知見が随所に含まれています.コンサルタント志望者はもちろん,多くのビジネスパーソンにとって価値のある書籍かと思います.



【管理人より】
網羅思考の危険性については,非常に説得力があります.まさにその通りかと思います.同時に,本書の内容から以下のような疑問を持つ方もいるのではないかと思います.それらに対する私なりの見解を紹介します.


仮設思考とMECEは矛盾するのか?:本書で強調されている通り,全ての可能性を検討していたのでは,時間がいくらあっても足りません.これが,コンサルタント等に徹底されているMECE(漏れなく,ダブり無く物事を考える姿勢)と矛盾するかということです.私は,矛盾する考えとは捉えていません.確かにMECEは,ある課題に対し,その原因等を漏れなく考えることが基本ですが,実際のところある程度本質からはずれた因子については,無意識のうちに排除したうえで思考を進めています.MECEを基本とした思考形式においても,目標としているのは,真の問題を発見し,具体的行動に繋がる解決策を考えることです.その点では,仮説思考と,MECEは強調すべきポイントは違うだけで,本質的な部分での矛盾は生じていないのではないでしょうか.


仮説思考,論理的思考といった類は,書籍でその重要性やプロセスを理解することは比較的容易です.肝心なのは,それを実際の場面で使えるようになるかどうかです.私もそのことを,常に忘れることなく,日頃から自分の頭で考える習慣をつけなければと,思った次第です.



【関連書籍】
『論点思考』 内田和成
『異業種競争戦略』 内田和成
『戦略脳を鍛える』 御立尚資



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