『経済学を学ぶ』

【評価】

☆☆☆☆


【紹介】
長年経済学の研究に携わっており,その分野の著作も多い岩田規久男教授の経済入門書です.経済学的な考え方から,市場原理,ミクロ経済学マクロ経済学の基礎について書かれています.M.E.ポーターの『競争の戦略』をはじめとする多くの有名な経営書は,ゲーム理論ミクロ経済学の基礎的な知識を前提に書かれているので,本書などで一度これらの要点を確認しておくとより得るものが多いと思います.経営と関連する重要な用語・考え方を紹介しておきます.



制約条件付目的最大化:消費に限定して述べます.経済学における消費者は「予算(制約)の範囲内で満足(効用)が最大になるように活動を行う主体」と定義されます.予算という制約があれば,消費者は,あるものを消費すると他の消費を諦めなければなりません(機会費用の発生).消費者は,あるものを買うことで得る効用が,機会費用を上回ると判断してはじめて,消費活動を行うと考えられています.


特化と比較優位:数ある能力の内,最も優れた能力を伸ばし,活用するように特化していくことを比較優位の原理と言います.これは一つの主体が,複数のことに長けていても,最も得意な分野に特化し,残りの活動はそれを得意とする他の主体に行わせる方が,全体の生産性が向上することを表しており,国際分業の基となる考え方です.


均衡価格と価格弾力性:同じ物でも,価格によって求める消費者の数(需要)も変われば,それを生産したいと思う人間の数(供給)も変化します.この需要量と供給量が等しくなる価格を均衡価格といいます.また,価格の変化に対する需要の変動の大きさを価格弾力性といいます.つまり価格上昇に対し,需要が大きく減少する場合は,需要の価格弾力性が大きいといいます.(ここから値引きは価格弾力性の大きい層に行うと効果的であることが分かります)


価格支配力と競争的市場:生産者や消費者が,その供給量や需要量を調整することで,価格を上下できる場合,生産者・消費者は価格支配力を持つといいます.競争的市場とは,個々の生産者・消費者の価格支配力の小さい市場をいいます.競争的市場では,希少性があり代替のきかない資源を利用して作られるものほど費用が高くなり,それを反映して価格も高くなるという性質があります.




【管理人より】
経済学の要点を確認してみると,競争戦略論やRBV,製品差別化といった概念が,経済学の基本的な原理・原則に沿ったものであることが容易に理解できます.これ以外に,経済について学ぶことの効用を私なりに紹介します.



経済政策の予想がつけやすくなる:政府・日銀の政策は,企業活動に大きな影響を与えます.経済指標の悪化・好転の際,どのような政策が実施されうるか,それはどの程度続き,会社および業界全体にどのような影響を与えうるかを予想することは極めて重要です.その際,マクロ経済的な知識・視点は大いに役立つはずです.


製品差別化・価格決定の精度の向上:どのような製品を開発するか,それをどの程度の価格で提供するかは,経営者が非常に神経を使うところです.マーケティングの理論や,製造原価の計算など様々な知見を基にこれらは決定される訳ですが,経済学(特にミクロ経済学)的な視座もその精度向上には一役買ってくれると思います.



経済学的視野に偏りすぎると,供給者論理や机上の空論に近い議論をする危険性も生じるわけですが,そのあたりは使う人次第かと思います.課題解決や理論構築の際,解決困難な理由を見つけることや理論の欠陥を探すことに一生懸命な人を多く見受けますが,それだけのエネルギーがあれば,解決するにはどうしたらよいか,欠陥を補うにはどうしたらよいかを考える方がよほど建設的です.今回学んだ経済学の知見に対しても,そのような点には重々注意したいと思います.



【関連書籍】
『日本経済を学ぶ』 岩田規久男
『マクロ経済を学ぶ』 岩田規久男
『ゼミナール ミクロ経済学入門』 岩田規久男



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