『世界不況を生き抜く 新・企業戦略』

【評価】

☆☆☆☆


【紹介】
BRICs経済研究で有名なエコノミスト門倉貴史氏の著作で、新興国経済の現状と、それに対する先進諸国(特に日本)の対応について書かれた著作です。ざっくりとポイントを紹介すると以下の通りです。


新興国を生産拠点としてではなく、市場として認知せよ:BRICs、NEXT11の市場規模を合計すると、2009年時点で約500兆円近い額となります。これらの国の経済は、年率10%というスピードで成長しており、各国ではそれに伴い多くの富裕層ならびに中間層、ニューリッチ層が出現しています。先進国企業も、自社の強みを上手く活用し、これらの市場に食い込んでいくことが、今後の成長のためには不可欠です。


新興国のインフラ需要は非常に大きい:大前氏の著作でも言われていますが、新興国の発展のためには、海外からの資本の流入が非常に重要となります。そのため、その各国政府はその促進のため、道路、電力、鉄道、上下水道などのインフラ整備に多くの予算を割いて言います。その際、日本の原子力発電技術、高速鉄道(新幹線)、浄水技術は大きな武器となります。これらを武器に、インフラ整備の案件の受注に成功すれば、それに直接的・間接的に関わる多くの企業にその恩恵が行渡ると考えられます。


一般的なビジネス書で、新興国の各国事情について、それなりに詳しくまとめられている書籍は少ないかと思います。このあたりの事情に疎いと感じている方にはなかなか良いかもしれません。



【管理人より】
題名だけを見ると、不況期における抜本的なビジネスモデルや、コスト削減のための大規模改革等々を予想しがちですが、内容としてはBRICsやNEXT11を市場として捉えたときの魅力について紹介したものといった感じです。著者も、本編で軽く触れていますが念のため二つ注意点を補足しておきます。

新興国の市場規模は、短期間での業績回復を狙ううえでは未だ不十分:BRICs、NEXT11の市場成長率には大いに目を見張ります。中には既に数十兆円規模にまで成長した国があるのも事実です。しかしながら、これらの国の現時点での市場規模は、千兆円近い規模を誇るアメリカ一国と比べると、十分大きいとは言えません。成長の布石として、新興国の消費者を狙うことは重要ですが、短期的な業績の向上として安易に新興国を狙うことは厳しいのが現状です。


顧客獲得以外の多くの問題への対応力が必要:新興国では、港湾、鉄道、電力といったインフラの未整備、規制や税制の課題((特に中国や東南アジア一部地域)、治安の問題など、顧客への製品・サービス以前に克服すべき課題が多数存在しています。これらについては、フィリップコトラー大前研一氏の著作でも何度か指摘され、いくつかの対処法が紹介されていますが、決して単純な問題ではありません。法務、物流、交渉事などに関する専門家集団とともに、柔軟な対応が不可欠です。


門倉さんは、新興国経済以外にも、様々なジャンルの著作を書いています。興味があれば調べてみてください。


【関連書籍】
BRICs富裕層』 門倉貴史
『中国が世界を買いあさる』 門倉貴史
『不況後の競争はもう始まっている』 ボストンコンサルティンググループ



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