『会社を変える戦略』

【評価】

☆☆☆☆☆


【紹介】
元BCG、元A.T.カーニー極東アジア共同代表、前ベイン&カンパニー東京事務所代表パートナーという経歴を持つ、山本真司氏の著作です。小説形式で、業務改善、事業戦略、企業価値マネジメントの勘所が学べる良書です。要点を二つほど紹介します。

業務の最適化は企業体質強化の必要条件に過ぎない:IT技術を駆使した、物流・在庫管理の最適化(SCM)も、顧客接点の強化(CRM)も、企業間競争で遅れをとらないためには当然意識して取り組むべき課題です。しかしながら、情報の分析・加工面での優位性は容易に模倣が可能であり、持続的な競争優位の構築はまず望めません。他社には容易に真似できないその企業独自の文化・能力(コア・コンピタンス)を見出し、継続的に投資していくことが、企業の生存・成長には不可欠です。

金融的な手法を使いこなす努力を怠ってはならない:企業価値、株主価値の最大化や、デリバティブ証券化という言葉を聞いただけで、換金主義、株主一本槍経営と結びつける人がいます。確かに、株主価値の最大化を最終目標とした経営は、往々にして悲劇を生みます。単に、営業黒字額の絶対額を見ているだけの経営者と、その黒字額が、事業規模、調達した資本のコストと照らしあわせて適切かを意識している経営者とでは雲泥の差があります。企業価値や金融リスク、保有資産のずさんな管理は、資金調達コストの増大、場合によっては会社存続の危機を招きかねません。あくまでツールとして見なしつつも、金融・財務手法も最大限利用する姿勢が不可欠です。


【管理人より】
本書で登場する経営ツールは、いずれも基本的なものばかりかと思います。ただ、知っているのと使いこなせるのとでは大きな差があります。その手法がどういった意図で作られたもので、どういった場面でどういう使い方をすれば効果を発揮するかを理解しないまま、経営手法を用いることは自殺行為です。その点は、私も常に忘れないようにしなければなりません。上記の要点に補足で一点欠かせてください。

ファイナンスを間接業務と思って軽視してはならない:EVAという言葉をご存知でしょうか。税引後営業利益(NOPAT)から、負債の金利を引き、さらに株主への配当とキャピタルゲインを引いたものです。実は、投資家に見捨てられないためには、この指標へを多かれ少なかれ意識する必要があります。
普通、増収増益で、配当もきちんと払えていれば、株主から見放されないと考えるかと思います。しかしながら、株主からすれば、数ある企業の中から投資対象を選ぶわけなので、配当がいまいち、または株価の成長がいまいちならば、あえてその企業に投資する意義はなくなるわけです。つまり、営業黒字であっても、投資家に資金を引きあげられる危険性は十分想定される訳です。そのため、単に営業黒字・営業赤字をみるだけでなく、利益水準も正しく把握するために開発されたのがこのEVAです。
資金調達の失敗は、事業存続に関わるものです。企業活動の継続を願うのならば、拒否反応を起こしている場合ではありません。EVAの他にも、企業財務の健全化のために身につけておくべき金融手法は数多くあります。是非前向きに取り組んでもらいたい分野です。


【関連書籍】
『最強の経営学 島田隆
『非対称情報の経済学』 藪下志郎
『不況後の競争はもう始まっている』 ボストンコンサルティンググループ



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