『イノベーションへの解』

【評価】

☆☆☆☆☆


【紹介】

名著イノベーションのジレンマの続編です.前著との差分としては,破壊的脅威を持った新規事業への対処方法について,より詳細な記述がなされています.特に示唆に富んだものとして以下の3つがあります.


市場の細分化方法:地域や年齢など顧客そのものを区分するではなく,顧客が片付けたい「用事」を元に市場を区分する

無消費の種類:1)製品によって片付けたい用事が顧客にない,2)片付けたい用事はあるが,市販製品が高すぎたり複雑すぎる

組織の在り方:新規事業の推進は,小さな利益でも前向きになれるような小規模の独立組織にやらせるべきである.


組織の在り方については前著でも同様の主張がありますが,こちらでは上記に加え,様々な状況下での事業の統合・分離,外部委託の意思決定に対する指針も述べられています.




【管理人より】

破壊的新技術の脅威についてだけでなく,市場分析,製品開発等々についても細やかに言及されている点で,前著との差分は十分あるかと思います.特に市場分析においてですが,あるマーケティングの本の中に
”5mmドリルを求めに来た客は,5mmドリルそのものではなく5mmの穴を求めている”
という類の言葉があります.確かに市場の分析にあたって,自社・競合の技術,コスト構造,ブランド力,顧客の所得などに注意を払うことも重要です.しかしながら,安価で高性能な製品であっても顧客の心に響くものでなければヒットに繋げることは困難な筈です.このことは新規事業参入に限らず常に意識しなければならないことですね.


マッキンゼー 組織の進化』でも言及されていましたが,新規事業に独立組織が向いているとはいえ,安易な分離は考えものかと思います.先端技術の開発などを筆頭に,本社の経営資源との結び付きが成長に大きく影響する事業も少なからずあります.その点の誤解を防ぐため,組織の在り方についてかなり紙面を割いている点で,著者の慎重さ・思慮深さがうかがえます.



【関連書籍】
イノベーションのジレンマクレイトン・クリステンセン
『明日は誰のものか』クレイトン・クリステンセン
『BCG流 成長へのイノベーション戦略』ジェームズ P アンドリュー,ハロルド L サーキン



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