『現場と経営力』
【評価】
☆☆☆
【紹介】
ローランドベルガー会長の遠藤功さんの著作で,内容としては以前紹介した『現場力を鍛える』の要約と強い現場組織をもつ企業の事例紹介となっています.紹介されているのは三菱電機やデル,中部電力などで,いずれも社員の方へのインタビューという形式で編集されています.
この本においても,強い企業においては優れた戦略と伴に優れた現場組織が不可欠であるという遠藤さんの主張は一貫しています.ここで一つだけそのことを物語る例を紹介したいと思います.
デルについては皆さんもご存じかと思います.PCの直販で大成功をおさめたアメリカの企業です.実はこの企業在庫を三日分しか持たないということを徹底しているのをご存じでしょうか?もしかしたらさらにこれは短くなっているかもしれません.このことが生み出すメリットがどれだけ大きいかは想像に難くないと思います.少し自分の頭の中でどのようなメリットが生じうるか考えてみてください.
ざっとこんなところでしょうか
- 在庫保管コストが削減できる
- 最新の部品への移行が容易に行える
- 状況の変化に応じて部品供給業者の変更が行い易い
そして以上のことはさらに二次的・三次的なメリットを生み出します.例えば以下の三つが考えられます.
- 価格競争力のある商品の提供が可能になる.
- 古い部品・古い製品が自社に溜まるリスクを軽減できる.
- 部品メーカーやソフトウェアベンダーが好んで取引に応じてくれる.
在庫管理が優れているだけでもかなりの競争優位に繋がることがわかると思います.しかしながらこれを直ぐに実行できる企業はまずありません.優れた組織体系を考えるとともに,同時に人材育成にもかなりの労力を割く必要があります.その分,もしこのような優れた現場組織を確立できれば,他社は容易には追いつけなくなるわけです.
現場力の重要さを理解するうえでは,大いに価値のある本かと思います.
【管理人より】
誤解の内容に一言補足しておくと,遠藤さんは決して現場力を過度に信仰している類の方ではありません.強い現場組織と同じくらい優れた戦略の重要性も理解しており,書籍を通しそのことを訴えています.しかしながら,若干現場力強化に対する記述にかなりの部分を割いているが故に,誤解が生じうる危険性を少し感じました.
企業の長期的な存続・成長を考えたとき,全社戦略
- 自社がどのような製品・サービスを提供していくか?
- そのためにどの事業は残し,どの事業は存続させるか?
- 自社の事業部門を育成すべきか,それとも他社の事業を買収すべきか?
といったレベルの意志決定を正しく行うことの重要性は非常に高いものであり,そこが上手くいって初めて現場組織の強みが大いに活かされるはずです.
現時点で”戦略は正しいものの組織の力が不十分”という企業はどの程度存在するのか?今の自分ではなかなか知り得ないことですが,コンサルタントになるのであれば一度そのあたりも深く考えてみなければならないですね.
【関連書籍】
『現場力を鍛える』 遠藤功
『ザ・トヨタウェイ上・下』 ジェフリー・K・ライカー