『マッキンゼー 事業再生』

【評価】

☆☆☆☆


【紹介】

マッキンゼーコンサルタント等が執筆した事業再生絡みの論文の中で特に示唆に富んだものを選び,編集した本です.タイトルは事業再生となっていますが,得られる知見は事業再生に限定されるものではなく,企業の成長戦略や事業の分割・統合等に関する所まで応用可能であると言えるでしょう.お勧めの論文は以下の三つです.

  • 第二章 サービス業再生への挑戦
  • 第五章 ハイテク業界の再編・淘汰
  • 第六章 企業価値・業績向上への経営


サービス業再生への挑戦では,サービス業に特に焦点を当て,改革の際に新経営陣が導入されることによる現場社員の不安や,従業員の解雇をはじめとするコスト削減策による現場のモラル低下が売上に与える負の影響を指摘し,適切な再生プロセスはどのようなものなのかについて述べています.

ハイテク業界の再編・淘汰では,ハイテク業界における大企業・中小企業のM&A戦略が述べられています.興味深いデータとして,買収に積極的な企業ほど,不況期においても優れた業績をあげていることが示されています.

企業価値・業績向上への経営では,事業改善に依存した従来の収益改善策が今日の熾烈な競争下では不適当であることを指摘し,景気に関係なく事業の抜本的な見直しを行うことの重要性を訴えています.


また,最終章では産業再生機構最高執行責任者へのインタビューが載っており,事業再生に興味のある若者にとっては非常に勉強になります.



【管理人より】

現状として,我が国の事業再生は上手く機能していません.依然として事業再生へのアプローチが財務リストラ主体であることもその原因の一つでしょうし,再生を達成させるまでに与えられる猶予期間が短すぎることもあるかと思います.今後人口減少が進む我が国においては,あらゆる業界で事業の見直しが求められ,事業再生が必要とされる機会も増加していくとことが予想されます.

資金の拠出・財務健全化・事業の立て直しのいずれが欠けてもこれらの案件の成功は困難です.高度な専門性を持ったプロフェッショナルチームを備えた民間ファンドなり政府系ファンドを生み出すことが不可欠なのではないでしょうか?

個人的に事業再生には以前から興味がありまして,コンサルタントとしてキャリアを積む中でこれらの業務に触れられたらと思っているのですが,それを望むのであれば相当のスキルを身につけなければならないと改めて思いました.勿論それぞれの分野の専門家同士力を出し合うことも重要ですが,財務の専門知識のないコンサルタント,ITや最新のテクノロジーを理解できていないようなコンサルタントでは,他の能力がいかに長けていようとも大きな価値の創出はおぼつかない筈です.

やるべきことは多そうです.




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