『市場戦略論』

【評価】

☆☆☆☆


【紹介】

マーケティング理論の第一人者,フィリップ・コトラーハーバードビジネスレビューに投稿した名著論文を掲載した本です.お勧めの論文は以下のとおりです.


一章:マーケティングの思考と販売思考では,コトラーの考えるマーケティングの定義が紹介されています.また,多くの企業において,マーケティングが単なる販売促進活動と混同されていることに対し,警鐘を鳴らしています.そしてマーケティング担当者は,今期の利益に責任を持つのは勿論のこと,長期的な収益性にも責任を持つべきであることが主張されています.

二章:撤退のマーケティング戦略では,経営資源の浪費を防ぎ,主力製品が本来あるべき売り上げ規模と収益性を達成するために,定期的な商品の見直しと,的確な撤退のプロセスが不可欠であることが述べられています.

五章:メガ・マーケティングでは,先進国企業が海外新市場に販路を拡大させようとする際に直面する困難と,その対処のためにマーケティング担当者は従来の4P(Price,Place,Product,Promotion)に加え,権力(Power),広報活動(Political relations)に目を向ける必要があること,そしてそのためには政治や法律に精通した専門家集団を用意するべきであることが主張されています.


全体の印象として,これからマーケティングを勉強しようという人より,従来の考え方をある程度知っていて,さらに有益な示唆を得ようと考える人向けに選ばれた論文が多いです.『コトラーマーケティングコンセプト』等を読んでから本書に目を通すのが,個人的にはお勧めです.



【管理人より】

短期的なシェアが企業の成長・収益性向上にほとんど寄与しないといったことは,企業戦略・成長戦略に関する多くの書籍でも言われていることです.

経済環境の変化が加速されるにつれ,既存の枠にとらわれることなく,商品・サービスの内容について,さらには主要市場についても常に見直しと修正が求められることが今後さらに増加すると考えられます.その点では,マーケターに事業全体を意識することを訴える一章や,経営資源の効率的利用の重要性を訴えている二章,新規市場への参入障壁への対処法を紹介している五章の存在意義は大きいのかと思います.


今後,単に販促活動しか考えられないマーケターは日々淘汰されていくことと思います.市場全体を俯瞰する能力に加え,研究開発から製造,流通のプロセスへの深い配慮,さらには組織戦略やIT戦略に関する知見を有することが求められていくのではないでしょうか.

ただ,このような人材が我が国に十分存在するかというと首を傾げざるを得ません.教育や雇用に関する政策を中心に我々が考え直さなければならないことは相変わらず数多くありそうです.



【関連書籍】
『成長戦略論』ハーバードビジネスレビュー編集部
『経営戦略論』ハーバードビジネスレビュー編集部
『創造する経営者』ピーター・F・ドラッカー
コトラーマーケティングコンセプト』フィリップ・コトラー


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