『マッキンゼー 変革期の体質転換戦略』

【評価】

☆☆☆☆


【紹介】

企業を取り巻く経営環境に起きている五つの大きな変革(技術革命,生産革命,流通革命,業務革命,世界化革命)に対し,企業に何が求められるか,それをいかに実現するかについて言及した書籍です.第一章の総論を大前研一氏が担当し,第二章〜第五章の各論を当時のマッキンゼーの社員の方々が担当するといった形式になっています.

執筆されたのが1985年ということもあって,流通携帯や技術水準,世界情勢など現代とは大きく異なる部分も多いわけですが,現代の経営者にとっても有益な示唆が随所に散りばめられています.


一章:世界的変化の潮流を読むでは,どのような付加価値もいずれは陳腐化し,コモディティ(利益の薄い大量生産品)化してしまうこと,そしてそれを防ぐため,企業は顧客がどうしても欲しいと思うような差別化されたものをつくり,自身に価格交渉力を持たせることが重要であることが言及されています.技術的に高度なものが,必ずしも高収益製品ではないわけです.そのことを踏まえ,常に次の世代の差別化製品を見抜きそれらを勝ち取るための積極的な人,物,金の投入が経営者に不可欠であることが訴えられています.


二章:五つの革命への対応の方向では多様な革命的な変化が経営の各分野で同時に起きた場合には,部分的な対策ではかえって混乱を増すばかりであり,ゼロベースに戻って,ユーザーと製品・事業との関わり方,製・販・技のあるべき姿を再検討する必要があることが訴えられています.成長産業であるからとか,ライバルが中小メーカーばかりだからというような安易な基準で参入先を選ぶことの危険性や,事業戦略と業務評価基準との整合性の大切さなどを理解するうえで有意義な章になっています.


三章:変革期の製品開発・導入アプローチでは,変革への第一歩を踏み出すうえで現時点で新技術を有しいるかどうかは大きな障壁とならないこと,それよりも,技術を正しく理解し,それを生かしていくための市場を見出す目とノウハウ,そして不足する能力を適宜調達する能力であることが述べられています.また,資源を無駄にすることなく,短期間で最先端のものを利用するため,全てを自社調達するのではなく,戦略的な提携・外部委託をすることが重要であることも,強く主張されています.


五章:変革への対応能力を備えた組織づくりでは,変革期における危機感の創出,部門の自律化,人材育成の重要さについて言及されています.問題の徹底的な分析とその議論によって,漠然とした不安を危機感に転じさせることが,組織の変革を進めるうえで基礎となるのは言うまでもありません.同時に,トップが本来すべき仕事(大きな業態の転換,事業の本質の再定義)に集中するためには,各部門の自律性も不可欠です.そして,変革を奨励するような業績評価,会計制度を採用し,中長期的視野の下,自ら考えて行動し,責任を取れる人材を育てていくことが組織には重要であると本章では訴えられています.




【管理人より】
大前研一氏の著作を読んでいると,マイケル.E.ポーター氏やP.F.ドラッカー氏と重なる主張が多々見られます.差別化によって,価格競争力を保つこともそうですし,ハイテクに依存した製品イノベーションが適切な場合が限られていることもそうです.

三人とも,経営の世界では一流中の一流なので,互いの著作を最低一読はしているでしょうが,何点か主張が重なったのは意図してのことではないのかも知れません.多少参考にする部分はあったかと思いますが,丹念に事実を分析し,論理を構築する中で,同様の主張が導かれる可能性は十分考えられます.

そのあたりを加味したとしても,大前氏の見識の深さと,それを分かりやすく平易な表現で伝える能力にはただただ感服します.



この本が出版されたのは,今から約24年前となります.確かに,各々の事例については古さを感じる部分も少なからずありますが,本質的なところは現代の環境に対しても十分応用可能であると思います.

現時点でも我が国は科学技術の各方面で優位性を持っていますが,それに固執し,思考の幅を狭めてしまうことは大変危険です.社会環境の変化,個々人の変化を真摯に読み取り,その中にある真の需要を把握し,その需要に最もあった製品・サービスを考案し,それに最も適した技術を獲得・利用していくことが,現代の我々にとって最重要なことではないでしょうか.

同時に,冷静かつ偏りのない思考の下,自社が満たしていく需要を選別することも極めて重要です.最近は環境技術や高齢者向けビジネス等に注目している企業が数多くありますが,目に見えて成長している市場というのは,競争激化に陥る可能性が非常に高くなります.それらを踏まえたうえで,自社はシェアを握れるのか?さらに深く考え,自社は利益を創出できるか?それは投資に見合うものなのか?といったことをつぶさに検討する必要があるはずです.


これらを踏まえ,私自身も最新の文献と共に,過去の優れた文献にも適宜触れるよう心がけたいと思います.




【関連書籍】
マッキンゼー 現代の経営戦略』 大前研一
マッキンゼー 成熟期の成長戦略』 大前研一
マッキンゼー 成熟期の差別化戦略 大前研一



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