『不況期の競争はもう始まっている』

【評価】

☆☆☆☆


【紹介】
ボストンコンサルティンググループリーマンショック後に発行してきた定期リポート"Collrateral Damage"とハーバードビジネスレビューに発表した論稿から構成された本です.景気後退期において,企業が優先的にとりかかる課題とその解決方法について有益な示唆を与えてくれるリポートが7本掲載されています.リポート毎に異なるコンサルタントが執筆しているため重複事項も多いのですが,特にお勧めなのは


企業は不況を過小評価しているでは,多くの企業が所属業界の収益性の低下を予想しながらも,自社の業績見通しについては楽観的な認識を持っていることに対し警告がなされるとともに,不況期であっても投資すべき所には投資を継続し不況期に相対的優位を確立すること,不況により改革への抵抗力が弱まることを利用し見込のない事業の整理を進めることの重要性が訴えられています.


不況期を逆手に取る法では,景気後退を契機に運転資本の最適化やサプライチェーンの包括的見直しを行うとともに,労働市場に優秀な人材が増え,割に合うM&Aが行い易い景気後退期を上手く利用し,コア事業への投資を継続することで弱った競合に対し長期的な優位を築くことが重要であると主張されています.


アジア経済とグローバル戦略への影響を検証するでは,資産価値の低下を招き,負債の重荷を増加させ,消費者需要の減退させるデフレの脅威や,中国・インドの政府のリスクを嫌う姿勢や,現状としてこれらの国々の個人消費が依然先進国に比べ非常に小さいことなど,事態の深刻さを理解するうえで有意義なデータが提示されています.同時に,この時期こそ,新興国のコスト優位性や未開拓市場を正しく分析し,活路を見出していくことの重要さについても訴えられています.


景気後退期のマーケティング&営業を考えるでは,景気後退期に妥当な水準のマーケティング・営業投資を行った企業が,見境なくコスト削減をした企業より景気回復期に著しく高い業績を上げているという調査結果を元に,不況化こそ製品・ブランドポートフォリオや重要顧客・ポテンシャルの高い顧客の客観的な見直しを行い,それらの上位に優先的に経営資源を振り向けることの必要性を訴えています.


打ち手の多くはそこまで目新しいものではなく,状況分析から自然と導き出される基本的なものばかりです.しかしながら,きちんとした調査データを元にそれらを導いている点,また実際これらの打ち手を頭に入れ,適切な行動をとっている企業が決して多くない点では,十分価値ある書籍かと思います.




【管理人より】
景気後退期において多くの企業が真っ先に着目するのがコスト削減かと思います.

不況を機に開発,営業,サプライチェーン,等の最適化を図るのであれば問題ないのですが,コストの一律カットにより,コア事業への投資が中途半端になってしまったり,取引先との関係悪化を招いてしまっては本末転倒です.冷静な事態の把握,今後の見通しをもとに,経営資源の最適な振り向けを各企業ともする必要があります.

そのためにも経営陣は明確な理念と強力なリーダーシップの元,整合性のとれた意思決定とその実行にあたってもらいたいところです.



本書の主張の数々は,調査結果とその分析,論理的な思考の組み立てによって導き出された極めて説得力のあるものなのですが,ひとつ残念なのが,主張は正しくともその実行が極めて難しく,その解決においてはやや力不足である点です.

まあ,そのためにコンサルタントという存在がいるのかと思いますが,実際に売上の低迷に直面し,資金調達に困窮し,財務基盤の弱体化,優秀な人材の流出に苦しんでいる企業の経営陣に対し,理想的な打ち手の数々を披露した時点では事態の解決の半分にも到達していません.製品ポートフォリオを見直し,マーケティング費用の最適配分をしても,その後の営業部隊の実績向上のためにはさらにきめ細やかな戦術の策定とその実行とフォローが必要です.見込のない事業からの撤退においても,事業の買い手探しやバランスシートへの悪影響の緩和等は実績ある投資銀行と組んでもそう容易に運ぶものではありません.不景気だからと言って組織改革への抵抗が無くなるわけではありません.

コンサルティング会社の実行支援業務に対し,否定的な見方をする方もいますが,打ち手の策定後,これらの困難を一つ一つ打破していく役は高度な調整力や忍耐力を必要としますし,その価値は極めて大きいと思います.



今回は以上です.供給者論理に満ちた当ブログに目を通して下さりありがとうございます.



【関連書籍】
マッキンゼー 事業再生』本田 桂子
大前研一 戦略論』 大前研一
『P.F.ドラッカー経営論集』 P.F.ドラッカー



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