『マッキンゼー 経営の本質』

【評価】

☆☆☆☆


【紹介】
マッキンゼー社を,そして今日のコンサルティング業界を創造した人と言っても過言ではない,元マッキンゼー・マネージングディレクターのマービン・バウワーの執筆した本であり,確固たる経営の意思を持つことそして優れた経営システムの確立の重要性が一貫して訴えられています.バウワーの数々の主張もさることながら,本書の要所要所に当時のGMやGE,AT&T, IBMなどの優秀なエグゼクティブや国のリーダー達の名言も引用されており,ビジネスリーダーを志す者にとって大いに心に響く著作となっています.

構成としては,経営の意思についての章から始まり,経営理念,戦略,行動方針,組織,経営幹部,事業計画,実行と話が展開していくわけですが,その中で紹介される理論や主張は決して目新しいものではありません.極めて基本的であり,それでありながら多くの企業が疎かにしてしまう様々な点を押さえたものです.特に得るものの多い章として以下の三つを紹介しておきます.



一章:経営の意思では,経営という言葉の定義として「組織の目標を定め,人材を始めとする資源をその目標達成へと導くこと」という表現が紹介されており,単に事業の成功を目指すのではなく,事業を経営しようという意思が重要であることが訴えられています.また,本書で重要視されている経営システムの説明としては,「経営システムとは事業計画,投資判断,業績評価など,互いに影響を及ぼし支え合う経営プロセスの集合体であり,プロセスはシステムの構成要素として組み合わされて活用され,システムは大きな方針や原則の枠組みとしてプロセスをしっかりと結び付ける」と言うなかなか興味深い,示唆に富んだ言い回しが使われています.ちなみにここでいう経営プロセスというのは,以下の14つの行動を指しています[経営理念を打ち出す / 経営目標を設定する到達目標を設定する / 戦略を立案する / 行動方針を定める / 基準を設定する / 手順を定める / 組織計画を立てる / 人材を配置する / 事業計画・業務計画を練る / 施設設備を用意する / 資金を手配する / 社員に情報を提供する / 社員に行動を促す]


二章:経営理念では,優れた企業の企業理念の共通項として[高い倫理規範の維持 / 事実に基づく意思決定 / 外部環境への適応と変化 / 実績に基づく評価 / スピード重視の経営]の五つが紹介されており,これらから生み出される組織の基本的な哲学,精神,活力が事業の成功に密接につながっていることが主張されています.その上で,経営幹部が理念を絶えず強調し,直面する問題を経営理念に照らして考え,会社の信条に一致する行動と一致しない行動を部下に教えることが極めて重要であることが訴えられています.


三章:戦略では,組織の能力を引き出し成功に向かうため,そして必要な変革を行うためにも戦略が重要であることが主張されています.そして,その立案の要点として以下の5つが提示されています.(1)戦略計画の説明責任はライン部長が負うものとし,最終責任はCEOがとる, (2)戦略計画を事業単位と会社全体の二つのレベルで立てる, (3)会社が行う事業領域を明確に定義し,それぞれに到達目標を立てる, (4)それぞれの事業について市場戦略・利益戦略・人材戦略を立てる, (5)戦略計画の責任者であるライン部長に補佐スタッフを配置する


四章:組織では,支配力に正当な根拠を与え有意義に活用するため,任務・責任・権限・資格要件を明確に決めることの重要性が訴えられています.特に,社員が自身の能力を十分に発揮し業務を効率的に遂行するために,社員の任務・責任の明確化とそれにしかるべき権限を与えることが重要であることが強調されています.さらに部下達の混乱やエネルギーの浪費,権力闘争を防ぐためにも権限をポストに対して与えることの重要性も主張されています.




【管理人より】

本書は1966年に書かれた書籍であり,著者も本文中で述べていますが,目新しいことは書いていません.また四章以降で展開される組織の人材配置や権限委譲の在り方等がそれが現代の組織の要請に合致するかは意見の分かれる所かと思います.私としても,何箇所か素直には賛同しがたいものがありました.

ただ,組織に関する主張の端々から,バウワーの高い倫理感や人に対する誠実さが伝わってきます.本書の中では何度にも渡って,社員一人一人を信じ,しかるべき権限を与え,責任と自由を与え,彼等を正しく評価し,責任と自由を与えることが訴えられています.リーダーの行動規範としても,各々の仕事の意味・重要性きちんと説明すること,経営への参画意識を高める工夫を凝らすこと,誠実であることの重要性が強調されています.


マービン・バウワーという人間の考え方やその生き様に多少なりとも触れられたことは非常に重要であったと思います.理論や提言の一部に見られる時代錯誤や具体性の欠如は,我々が自ら考え,補い,改善していけばいい訳です.それよりも,そのための規範となる考え方,意思の持ち方,自己規律の精神を与えてくれた本書の記述の数々には,感謝しなければならないなと思っています.

コンサルタントを目指す人であれば,一度手にとって読んでみてほしい本です.



【関連書籍】
マッキンゼーをつくった男 マービンバウワー』エリザベス・イーダスハイム
『経営者の条件』P.F.ドラッカー



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