『コトラー 新・マーケティング原論』
【評価】
☆☆☆
【紹介】
技術の進展や市場環境の変化に対し,企業がいかに対処していくべきかについて,マーケティングの第一人者フィリップ・コトラーが解説した本です.日本語版のタイトルがやや誤解を生みやすいのですが,この本はコトラー教授の理論をまとめたものではありませんのでご注意ください(ちなみに英語でのタイトルはMaketing Movesです.)
経済環境が進化するにつれて,企業側はあらゆる点で意識を変える必要があります.
- 「作って売る」という考えから「ニーズを感じ取って満たす」努力をする
- 地域経済ではなく,グローバル経済を事業フィールドに据える
- 一部の顧客だけでなく,全ての顧客のために製品を用意する
- 大量市場ではなく,個別市場を前提にする etc
と挙げていけばかなりの数になります.
いずれも重要なことに変わりはありませんが,多くの企業にとって特に意識すべきなのは個別市場という考え方ではないでしょうか.従来は,個々の顧客に合うように製品・サービスを用意することはコストの面で困難でしたが,情報技術の進展により現在はそれが可能となりました.この流れをいち早くつかみ,顧客に対し高い価値を提供できるかどうかがその企業の売上を大きく左右することとなります.そのためには,何をしたらよいか?また何に気をつけなければならないか?それらについて著者の意見がまとめられています.
【管理人より】
マーケターの従来の仕事と言えば,製品の価格・販売チャネル・品質・広告の管理や,市場の分類,ターゲットの選別,自社がとるべきポジションの決定などが主たるものでした.しかしながら顧客ニーズが多様化した現在においては,これだけでは十分な成果に繋がらないのではないかと思います.顧客に対し,より細やかで柔軟性のあるアプローチが不可欠です.
『イノベーションの解』の中でも”あらゆる顧客のニーズを分析し,それらを満たすように作られた万能な製品は,結局誰のニーズも満たさないものになってしまう”という意見が述べられていました.企業は製品の機能・性能のラインナップの拡充と共に,購入スタイル(どこで買えるか?どのような組み合わせで買うことができるか?)に対してもより配慮が必要なのではないかと思います.
その中で
- 自社の利益を確保するにはどうするか?
- どのような価値に対しては顧客は喜んで対価を支払ってくれるのか?
を考えなければなりません.また
- それが自社の経営資源で実現できるのか?
- できなければどう調達するか?合併・買収と提携とではどちらを選ぶべきか?
- 別の市場にチャンスはないか?そこに他社が参入してくることはないか?そうしたときでも勝ち目はあるか?
等々,検討すべきことは数多くあります.しかしながら,今後の生き残りのためには日々これらを考え続け,自分達が何を提供すべきかを見直す姿勢が不可欠ではないかと思います.
正しい問いをする能力,そしてその時々において最も正しい答えを導き出す能力がどの業務においても重要ですね.決して簡単なことではありませんが.
【関連書籍】
『顧客ロイヤリティを知る「究極の質問」』ベインアンドカンパニー フレッド・ライクヘルド
『市場戦略論』 フィリップ・コトラー
『なぜ安くしても売れないのか』 ボストンコンサルティンググループ マイケル・J・シルバースタイン