『逆境経営 7つの法則』

【評価】

☆☆☆☆


【紹介】
駿河台大学,東京工業大学で教鞭を揮う水尾順一氏の著作で,近年の不況下・逆境下において企業が持つべき心得が書かれています.内容も易しく,紹介事例も親しみのある企業が多いです.が,同時に多くの企業が見落としがちな点をきちんと指摘している良書かと思います.

提示されている7つの法則(壊すことから始める / 金を惜しむな / 何があっても「顧客満足」 / 「威張らない上司」を養成せよ / 社員がのびのび働ける環境をつくろう / 「らしさ」で団結 / 社会から離れない)の中から特に共感を覚えたものについて解説したいと思います.


壊すことから始める:産業構造が変われば,好況から不況へと替われば,成功のルールも変わります.過去の成功体験が使えなくなるのもそうですが,逆に以前上手くいかなかったことが成功要因となる可能性もあるわけです.逆境下では,事業費・教育費等々の削減に目が行きますが,そのようなときこそ,ビジネスモデルの再構築や社員の創造性・柔軟性の育成に投資することも重要です.


金を惜しむな:逆境下では,とかく出費を抑えようとしがちです.しかしながら,必要以上のキャッシュを確保していても,それが増えることはありません.逆境を跳ね返す大きな成果が欲しいのならば,製品開発,ブランディング等の投資を惜しんではいけません.


威張らない上司を養成せよ:逆境下では,とかく短期目標の達成を部下に押し付けようとする上司が増加します.しかしながら,単に数字目標を引き上げ,具体的な解決策も提示せず,顧客訪問数,営業時間を延ばしても,現場が疲弊する一方で業績向上は望めません.このような時こそ,共に解決策を考える姿勢,現場をサポートする姿勢が重要となります.



【管理人より】
本書では,資生堂,小林製薬,トヨタなど,日本的な企業をもとにした事例のみが提示されていたので,私のわずかながらの知見も付加したいと思います.


不況下の投資を肯定する調査結果は国内外で得られている:BCG,BAIN,Deloitteなどの調査によると,不況下に果敢に戦略的投資を行った企業のほとんどは,景気回復後の業績回復度合い,売上・利益成長率で他社に明らかな優位を獲得したという結果が得られています.理由は,容易に察しできると思います.一つは,他社が投資を控えている分,自社の競争優位が創出しやすいため,もう一つは,被買収企業(事業)の企業価値の低下と競合の買収妨害が減ることで,妥当な投資で価値ある事業が取得できるためです.勿論,逆境下では,企業はキャッシュフローに細心の注意を払う必要があります.しかしながら,過度な投資意欲の減退(更には事業売却)は,自社の競争劣位を招くだけということにも注意する必要があります.


顧客満足は重要だが,現場至上主義には注意しなければならない:日本人の経営論者や経営者の著作では,欧米以上に現場社員,顧客との接点を重要視している姿勢がうかがえます.それ自体は決して悪いことではないと思います.素晴らしい行為です.しかしながら,顧客満足は顧客の声を聞き,それに応えるだけでは達成できないこと,トップが現場に来ても,社員・顧客の本音が聞けるとは限らないことは,頭においておく必要があると思います.顧客でも気づかなかった価値を創出する能力の育成,現場と本音で意見を交わせる環境作りに,多くの神経を注ぐ姿勢が不可欠です.


学生の分際で好き勝手書いてしまい恐縮です.最近,また生意気さが際立ってきた気がします.現実世界では気をつけます.


【関連書籍】
『不況下を生き抜く 新企業戦略』門倉貴史
『不況下の競争はもう始まっている』ボストンコンサルティンググループ
『大逆転の戦略』エイドリアン・スライウォッキー



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